天体観測
「思わないよ」と、見えない相手に向かって、大声で言う。

「俺も思いません」と、返ってきた声は僕の頭に直接響いてくる。

「でもね、司さん。俺は恵美が俺のために犯人捜してたとも思えないんです」

「違うよ。恵美は隆弘のために捜査をしてた」

「思うんですけど、人っていう生物はもっと利己的じゃないですかね?」

「どういうことだよ」

「そのままです。人間は利己的な生きものなんですよ。もちろん、恵美も。だから恵美は絶対、俺のためなんて思ってませんよ。ありもしない責任から逃れたいだけなんですよ。恵美は恵美なりに感じてるみたいですから」

「何が言いたいんだ」

「つまりですね。そんな、俺や恵美のためやなんて思わんでいいんですよ。司さんには、司さんの考え方とやり方があるんやから」

「でも、俺が捜査を継続することによって、恵美が悲しむなら、誰かが不利益を被るなら、俺には出来ない」

見えない隆弘のため息が聞こえてくる。僕は辺りを見回して、隆弘を探す。

「じゃあ、俺はほったらかしですか」

「え?」

「それはあくまで司さんと、恵美との問題でしょう?俺は無視ですか?ひどいじゃないですか。何で俺には言ってくれないんですか?」

「何をだよ」

「『お前はどうして欲しい』って」
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