天体観測
父さんは黙って踵を返し、ゆっくりとした足取りで葬儀場から出て、駐車場の方に行った。

僕もしぶしぶそれに従い、車に戻った。

僕が助手席に座り、父さんが運転席に座ったけれど、いくら待っても父さんはエンジンをかけようとはしなかった。

「どうしたの」と聞ければ、どんなに楽だろうと想像するだけで、どれだけ父さんがつらいかわかる気がした。父さんは父さんなりに一生懸命やったに違いない。けれど、結果は当初の見解とは大きく違い、一週間と保たなかった。医者にとってはきっと最大の屈辱なんだろう。

「悪かったな」と、父さんが重い口を開いた。

「父さんは一生懸命やったさ」と、意味のないフォローをする。

「助けられなくては意味がない」当たり前のように返ってくる。

「じゃあ、今度同じ病気の人が現れたら助けてやればいい。きれいごとだけど、そうじゃなきゃ隆弘も浮かばれない」

父さんが口元を少し緩ませて、言った。

「そうだな。悪かった。お前にこんなことを言っても、仕方がないのにな」

「疲れてるんだろ?」

「ああ」

「長い休暇を取ればいいさ」

「ああ」

父さんはやっとエンジンをかけて、走りだした。

ここから家までなら、車で十五分で帰れる距離だ。帰って着替えたら、行動を開始しようと僕は密かに誓った。
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