天体観測
「厄介だな」と、僕は頭を掻きながら、言った。

「今ならまだ引き返せる」

父さんは冷蔵庫からビールとグラスを取り出して、飲みはじめた。僕は立ち上がり、玄関に向かった。

「何処に行くんだ?」

「神目貞照の家さ」

「何処にあるかわかるのか?」

「見当はついてるよ」

「そうか」

「うん。車借りるよ」

「あれはお前のだ」

「そう」と言って、僕は外に出た。

外は相も変わらず、暑いというありきたりな言葉を使うのが申し訳ないくらい暑い。けれど、今は不快ではない。湿度が低いわけでも、日差しが弱いわけでもない。僕は軽い歩調でガレージに向かい、車に乗った。

見当はついてる。しかも、かなりの高確率で、それは当たっている。神目貞照が隆弘の事故を発見したのは夜だ。つまり、家が近所にある可能性が高いことになる。あそこには政治関係で使えるような料亭や施設はないのだ。

僕はゆっくりと車を動かす。ギアは二速。急ぐことはない。道はもう続いているのだから。

同時に僕は捜査一日目の雨の日を思い出す。そして隆弘の事故現場の方向にハンドルを切る。

僕は向かう。雨の日、あの車が大量に停まっていた家へ。
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