天体観測
しばらくの沈黙の後、「待ってて」と言って、プツリとインターフォンが鳴った。

僕にとって、これはかなり拍子抜けだった。もう少し食い下がってくるかと思った。けれど、あんなにすんなり入れてくれたということは、これはこれで利用価値があるかもしれない。

玄関の重厚なドアが開いて出てきたのは、見る者すべてを魅了するような黒い髪を持った女性だった。実際、僕は数秒間息をすることを忘れていた。

「入って」と、神目薫に言われて、僕は我に返った。

僕は門を開いて、ここだけで僕の家よりも広いんじゃないかというくらい広い庭を通って、ようやくドアのところまで来た。

「すいませんね。急に」

僕は軽く会釈をした。けれど神目薫はそれを無視して中に戻っていった。僕も黙ってそれについていく。

「適当に座ってちょうだい」

リビングはまさに豪華絢爛だった。一府議会議員が集めれるわけがないと思わせる代物ばかりで、相当あくどいことをやっていたに違いない。

僕は、家にある物の倍以上の値はするであろうソファに腰を下ろした。

「飲み物は何がいいかしら?」と、神目薫が上品に聞いてきた。

僕は遠慮しようかとも思ったけれど、ここまで半ば強引に入ってきたのだから、遠慮するのも変だろうと思い、「アイスコーヒーを。ブラックでください」と、言った。
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