天体観測
僕は劣勢を覆すべく「なかなか御夫人は薄情な人のようですね」と、言った。

僕はわざと神目薫の逆鱗に触れるように言ったのだ。ここでこちらの思惑通りにいってくれないと手詰まりになってしまう。

「あなたに何がわかるの?何があったか知らないあなたにそんなこと言われたくないわ」

思惑通り、神目薫は声を荒げて言った。僕は神目薫にわからないように薄い笑みを浮かべた。

「何もわかりませんよ。でも誰の目にも薄情な人に映ると思います。これは一般論です。僕はそれを言っているだけです」

「あなたは一般論なんていう安っぽい言葉で、人間が語れると思っているの?」

「もちろん一般論だけではあなたのお母様を語ることは出来ません。けれど、僕は一般人なのでそれしか語る術がないんです」

「なら語らないで」

「でも、あなたはそれを気にしてるようなんで」

「あなたには関係ないでしょう」

「僕には関係ありません。けれど僕が話す内容に関係なくはないんですよ」

「そうよ、それよ。私に何の用があるの?」

「まだ言えません。これはお母様の耳にも入れておかなければならないことなんです」

「ママは帰ってこないわよ。だから言って」

僕はある確信を得た。神目薫は何かやましいことを知っている。あるいは行った。今度は神目薫にわかるように、僕は笑みを浮かべた。
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