天体観測
いつものようにクルマを停める。そして、一息つく。心の準備とか、覚悟を決めるとかそういうことじゃない。単純に、一息つく。それだけだ。
僕は目の前に聳え立つ建造物を見る。夜という条件下で見たのは初めてかもしれない。月と、もうすっかりと暮れてしまった世界とが相俟って、それは昼間の何倍も大きく見える。僕は深呼吸をして車を降りた。
僕は車を降りても、直接恵美に会いに行こうとはしなかった。まずは、マスターの所に行く。
「アイスコーヒーを二つ用意しておいてくれないかな?」
僕は風鈴を鳴らして、その場で言う。マスターは「あいよ」と言って、右手を上げただけで、奥に消えていった。僕は「ありがとう」と言い、踵を返して、エレベーターの方に向かった。
目的地は三階、プラネタリウム。時間にして数秒の旅だった。扉が開く。目の前には『プラネタリウム』の看板。僕は神目家の扉にも負けてはいないであろう扉をゆっくりと開く。下が絨毯のせいだろうか。乾いた音ともに、扉は開いた。
恵美は僕らの指定席とも呼べる円状に並べられた椅子の一番出入口に近いところにいた。僕はその隣に腰を下ろす。恵美は僕には目もくれず、じっと天井を見上げていた。
僕らの間に沈黙が流れる。痛みを伴うものじゃない。むしろこの空間にいる、それだけで世界は価値のあるものだと認識できる。
僕も上を見る。僕の上にはちょうど、こと座のα星、ベガがあった。
「ねえ、司?」
「何?」
「人って死んだら星になるのかな?」
「ああ。なるよ。きっと」
僕は目の前に聳え立つ建造物を見る。夜という条件下で見たのは初めてかもしれない。月と、もうすっかりと暮れてしまった世界とが相俟って、それは昼間の何倍も大きく見える。僕は深呼吸をして車を降りた。
僕は車を降りても、直接恵美に会いに行こうとはしなかった。まずは、マスターの所に行く。
「アイスコーヒーを二つ用意しておいてくれないかな?」
僕は風鈴を鳴らして、その場で言う。マスターは「あいよ」と言って、右手を上げただけで、奥に消えていった。僕は「ありがとう」と言い、踵を返して、エレベーターの方に向かった。
目的地は三階、プラネタリウム。時間にして数秒の旅だった。扉が開く。目の前には『プラネタリウム』の看板。僕は神目家の扉にも負けてはいないであろう扉をゆっくりと開く。下が絨毯のせいだろうか。乾いた音ともに、扉は開いた。
恵美は僕らの指定席とも呼べる円状に並べられた椅子の一番出入口に近いところにいた。僕はその隣に腰を下ろす。恵美は僕には目もくれず、じっと天井を見上げていた。
僕らの間に沈黙が流れる。痛みを伴うものじゃない。むしろこの空間にいる、それだけで世界は価値のあるものだと認識できる。
僕も上を見る。僕の上にはちょうど、こと座のα星、ベガがあった。
「ねえ、司?」
「何?」
「人って死んだら星になるのかな?」
「ああ。なるよ。きっと」