天体観測
「どういう意味?」

「泣いてないだろ?だから泣けばいいんだよ。そういう意味」

「何でわかるんよ」

「なんとなく、そう思うんだ」

「じゃあさ」

「うん」

「胸貸してね」

「ああ」

恵美は僕の胸に顔をうずめて、今までにみたことがないほど泣いた。二十分でも三十分でも、泣き続けるかもしれない。けれど、それでもかまわなかった。こうしている間にも、僕の世界は刻一刻と変化している。それが実感できるのが心地よかった。だからいくら泣いてくれてもいい。いい加減飽きたら、そっと唇を覆ってやればいいんだ。

「ごめんね。司」

嗚咽まじりの声で恵美が言った。

「別にいいよ。シャツなんていくらでもストックがあるし」

いやいやをして、恵美は続けた。

「ちゃうよ。前言ったこと。謝りたかった」

「あれはお互い様だ」

また恵美は激しく首を横に振った。

「自分のこと棚に上げてた。自分のために捜査してたのは私やったのに……司は私たちのために一生懸命にしてくれてたのに……ほんまに最低やな」

「それも隆弘に言われた。『人間はもっと利己的な生き物』だって。仕方がないことなんだ。俺だって自分のことしか考えてなった。自分のやりたいようにやって、隆弘のことなんて考えてなかった。ただ……恵美のために、何かしてやりたいとしか考えてなった。それも自己満足の範囲で。結果なんて伴わなくていいと思ってた。ただ恵美を好きでいる自分がたまらなく可愛かったんだ。だから言えなかった」

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