天体観測
「言えなかったって何を?」

僕は何も言わない。いざ、本人を目の前にすると、言えない。今までの、十八年間の、自分を否定するような気がした。心の最後の門番が、ありのままの僕を追い返す。心の奥へと。何の脅威も、享楽もない、自己満足の領域へと。僕はそれに抗う。たしかにそこは居心地がいいかもしれない。何の心配することなんてないのかもしれない。けれど、僕は嫌なんだ。変わりたいんだ。自己満足なんかで自分を押し殺したくない。脅威や享楽があるからこそ生きていると実感できる。生きていることが喜びになる。僕は利己的にそれを望む。他人なんて関係ない。自分と、もう一人くらいが笑いあえたらそれでいいじゃないか。

恵美はきっと僕の言わんとしていることを理解している。それでも言わなくてはいけない。想いを形にしなくては、何も残らない。それでは意味がない。

「それって世界一?」

僕が口を開こうとしたとき、恵美が言った。それが助け船とわかるのに十秒はかかった。

僕は言う。言葉に、自分のありったけを込めて。

「世界一なんて、そんな小さい尺度では表せれない。俺の頭の中は世界より、宇宙より、広いんだ」
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