天体観測
「それってどういうこと?」嬉しそうに、恵美が言った。

天井で煌めく星々が、よりいっそう輝きを増す。赤いものはより情熱的に、青いものはより冷笑的に。それはもう、投射機で作られた人工的な星の集合体ではなかった。宇宙そのもの、銀河そのものだった。

「きれいだ」僕が恵美の質問に答えずに言う。

「私のこと?」恵美が勘違いをする。

しばらく僕らは呆然と天井を眺めていた。首が痛くなってきたので、床に寝転ぼうかと考えたけれど、とりあえず止めることにした。

どのくらいそうやっていたのだろう。

正確な時間の流れがわからない。あれから一時間も二時間も経っている気がする。

「なあ」僕が呼びかける。

「うん」恵美が答える。

「俺って少しは変われたかな」

「そんなんわからんよ。でも……成長はしたんちゃうかな。前の司とは違う。そんな気する」

「ようはきっかけの問題なんだよな。あるかないか、それだけで大きく違う。不謹慎だけど隆弘のことがなかったら、俺は今こうして恵美と天井なんて見てなった。間違いなく一人で世界史とか勉強してた」

「それはお邪魔やったかしら」

「ありがとう」

恵美に驚いた様子はなかった。身動ぎもしなかったし、「司……大丈夫?」とも言わなかった。僕はそのとき、隆弘の言葉を思い出した。

『司さんは何だかんだ言っても恵美の一番の理解者やと思ってたのに』

あいつはそう言った。それは逆もまた然りなのかもしれない。僕は恵美を、恵美は僕を、お互いが想像しないぐらいに知ってるのかもしれない。もしそうであったなら、それだけでいい。他には何もいらないのかもしれない。
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