天体観測
「地球が出来たときはさ、世界の何処からでも、こんな景色が見れたんかな?」

「だろうな。何の音もない、誰の気配もしない世界で、好きな所で、朽ちるまで星を見るのもいいかもしれない」

「神様も、そう思って地球を作ったんかもね」

「星を見るためだけに?」

「うん。神様にとっては地球なんて、一つの部屋みたいやろ?」

「かな」

「きっと地球は神様が作ったプラネタリウムみたいなところやねん。自然の星をみる最良の空間」

「すごくロマンチックだ」

「やろ?」

「ああ」

僕らは笑いあう。それでも、繋いだ手は離さない。

「なあ」

「うん」

「すべてが片付いたら、隆弘を見に行こう。二人で」

「うん」

僕は恵美の手を握り直した。恵美も僕の手を強く握り返す。

「降りようか」

「うん」

「マスターにアイスコーヒーを頼んであるんだ。きっと、今までで、一番うまい」

「そうやな」

恵美が僕に微笑みかける。僕も恵美に微笑みを返した。

僕らは手を繋いだまま席を立ち、僕らのいた小さな空間をあとにする。それは名残惜しくもあり、翹望しているようでもあった。
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