天体観測
「詳しく説明しろ」

「今日会った人は、神目貞照の一人娘、神目薫なんだ」

「どういうことやねん」

「事故の第一発見者が神目貞照だった」

「それってつまり……そういうことなんか?」

「間違いないと思う。ちょうど似たような時期に、彼女が談合の現場を目撃している」

「まさかな……」と、低い声で言って、マスターは帰った二人のグラスを片付けはじめた。

「それ、どういうこと?」

「わかんないか?」

「だから聞いてるんやんか」

「つまり、隆弘を轢いた犯人は、何らかの形で、収賄事件にも加担している可能性がある」

「司はどう思ってんの?」

「八割方関係があると思う。あまりにも重なりすぎてる」

「すごいな……もうこれって完全に警察に任せた方がいいよね?」

「もちろん警察に任せるさ。収賄の方はね」

「事故の方は?」

恵美の表情をたしかめてから、僕は言った。

「少なくとも、事実関係だけははっきりしておきたいな。収賄の方が捕まれば解決はするんだろうけど、やっぱり悔しい」

「どうするつもりやねん」

マスターがカウンターの向こうから出てきて、僕の隣に座り、タバコを取り出して、神妙な顔で火をつけた。

「少年は、神目貞照が誰と談合したか、わかってんのか?」

「言ったはずだよ。犯人の目星はついているって」
< 158 / 206 >

この作品をシェア

pagetop