天体観測
「じゃあ、止めとけ」

マスターが僕に向かって言った。その顔はいつものマスターから想像出来ないほど真剣で、僕は一瞬、たじろいでしまった。

「止めとけ。後は時間の問題やろ。全部警察に任せとけ」

「大人の意見として聞いておくよ」

「冗談で言ってんのとちゃうぞ」

「わかってるよ。マスターこそ、こっちのことを考えてほしいな」

「考えてるから言ってんねやろ」と、今までその口からは聞いたことのないほど大きな声で、マスターが叫んだ。

僕の中で何かが引っかかった。マスターの言わんとしていることは十分理解できる。けれど、何かが引っかかる。僕は、その違和感を神目薫にやったように、マスターから聞き出すことにした。

「取り返しのつかないことには、いつか必ずなるんだ」

「だからってそれでいいんか?お前はそれでいいんか?」

「罪はいつか裁かれるものなんだ」

マスターは俯いて、何も言わなくなった。

僕は右肘で恵美を突いて、左手で車のキーを渡した。それだけで理解した恵美は、こくんと頷いて、HIROを出ていった。

「やっぱり気付いてたんだね。マスターも。それこそいつから?」

「確信はもたれへんかったけどな。さっき、第一発見者が神目貞照って言われてわかった」

「どうして?」

「三年前の選挙で、手伝ったからな」

「そのときから後援会にいたってこと?」

「そうみたいやな。もしかしたら前々から、そういうのがあったんかもな」

「マスター」

「何や」

「僕に教えてほしいんだ。その人の会社が何処にあるか」
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