天体観測
「どういうこと?」

そう言ったのは、僕でも恵美でもなく、母さんだった。

「そういうこと」

「それじゃあ何も伝わらないわよ」

「でも、他に表現しようがないんやもん」

「だから、あなたと司、二人でわかる会話をしてたら、私と恵美ちゃんはどうなっちゃうのよ」

「僕は僕の名誉のために言うけど、マスターの言いたいことなんて、ミジンコほども理解しちゃいない」

「じゃあ、あなたしかわからないじゃない。そんな暗号、誰も解読してくれないわよ」

「だから、暗号やないって。そのままの意味やんか」

母さんとマスターは完全に気が付いていないみたいだった。この会話に恵美だけが取り残されていることに。僕はそんな様子に気付き、恵美に言った。

「わかった?今の意味」

恵美は返事をせずに、ただ母さんとマスターのやり取りを眺めている。そして、一言呟いた。

「夫婦みたいやね」

「みたいじゃなくて、本当になる可能性があるんだよ」

恵美が、えっと小さな声で言った。それから数秒間、恵美は僕の顔を覗き込んでいた。

「どういうこと?」

恵美の声は好奇心で溢れていた。

「つまり、そういうこと」

「マスターが司のおとんになるかもしらんの?」

「一つの可能性としてね。本人たちは否定してるけど」

「つまり、私のおとんになるかも知らんねんな……」

「それは飛躍しすぎだろ」
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