天体観測
「それは……どういうことや」

男は、無理に繕っていた標準語を、話せないほど動揺していた。

「そのままですよ。僕は神目薫じゃない。それだけですよ」

「じゃあ、誰や」

「名前を言うほど愚かじゃありませんよ」

「舐めくさったガキやの」

「気付きませんか?話せば話すほど、墓穴を掘っていることに」

「だからなんや。そんなんが証拠になんのか?」

「言動の変化が激しいですからね。それなりには」

「お前は何でここに来たんや」

「あなたと、神目貞照の関係をたしかめに来たんですよ」

「残念やったな。何もわからんまま、帰ってもらうで」

男は立ち上がって、ドアノブに手をかけた。

「かまいませんが、よく考え直した方が身のためだと思いますけどね」

僕は、男の後ろから言った。

「ええから、お帰り。ボウヤ」

僕は一つため息をついて、サッカーボールを元の位置に戻して、ドアの方に向かった。男がドアを開ける。僕と男の身体が重なったとき、僕は呟いた。

「警察にでも行くか……」

僕の呟きを聞いて、男が勢いよくドアを閉めた。

「待て。もう一回、座れ」

「それは命令ですか?それとも懇願ですか?まあ、この際どちらでもかまいませんけど」

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