天体観測
男はドアの前に立ったまま、動こうとしなかった。僕は、またソファに座り、男が口を開くのを待った。男の手にある煙草は今にも灰が落ちそうだった。

「警察になんか行ってどうすんねん」

「どうしましょうか?収賄事件の有力情報を掴みましたとでも言いましょうかね」

「有力情報?」

「はい」

「何や、それ?」

「言ってほしいですか?」

「当然やろ」

僕は、不敵な笑みを浮かべて、右手の掌を天井に向けたまま、親指と、人差し指をくっつけた。

「いくらや」

「冗談ですよ」

「いい加減にしとけよ」

僕は男のように、にやりと笑い、言った。

「僕がここにいる。それだけで十分なんですよ」

「どういうことや」

「わかりませんか?」

「ああ」

「あなたが僕を社内に入れたのは、神目という姓によるものだ。それだけで十分でしょう?僕が何を言いたいか、それぐらいはわかるはずです。あなたは、神目薫が父親のことを聞きに来た。そう思ったからじゃないんですか?」

「うちは大抵の客を入れてるで」

「それが本当なら、あなたは部下の躾けがなっていませんね」


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