天体観測
ようやく、ここまで来た。この一言が、最後の道標だ。僕は大きく深呼吸をする。まだ、聞いておいたほうがいいことがある。

「談合というのは?」

「もちろん予定価格を聞いた」

「けれど、それは二年ほど前の話だ」

「事の発端と日にちが近かった怪しまれるやろ。だから、予定価格だけ聞いて、セリの方を先延ばしにしたんや」

「その……事の発端とは?」

「……」

「あなたたちは罪の共有をした。そういうことですか?」

「罪の共有?」

「わからないならいいです。説明する暇はないんですよ」

僕は立ち上がって、何も言わずにドアの方に向かった。こんな所、一秒でも早く抜け出したかった。

僕がドアノブに手をかけたとき、男が言った。

「お前を信用していいねんな」

「それを言うタイミング、間違ってますよ」

「勢いで言ったんや」

「僕があなたのことを口外するつもりなら、わざわざこんな所に来ません。だから、信用してくれてかまいません。上辺だけでもね」

「わかった」

「もう一つ聞きたいことがありました。あなたは本当に神目薫を知らないんですか?」

「それは……」

「そんなわけありませんよね。何て言ったって、あなたは神目貞照の後援会員だったんだから」

僕は返事を待たずにドアノブを捻り、部屋を出た。

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