天体観測
僕は神目家の前に車を停め、壊れたインターホンに指をかけた。名前を言うと、彼女は「待ってて」と言い、すぐに玄関のドアが開き、神目薫が僕を中に入れてくれた。神目薫は自慢の黒い髪を束ねていて、その姿は目を見張るほど妖艶だった。

「来ると思っていたわ」と、リビングに向かう途中、満面の笑みで、神目薫が言った。

「さっき警察の人が来たの。まあ、ここには、もう何もないんだけどね」

リビングには、本当に何もなかった。あの、豪華絢爛な家具が一切ない。この家が生まれた姿に限りなく近かった。ただ、真ん中に、あのソファがあるだけだった。

僕らはそこに並んで座った。

「持っていかれたんですか?」

「返還したのよ。私ね、東京に戻ることにしたの」

「昨日の今日なのに、すごい行動力ですね」

「思いたったらすぐ行動しなきゃ気が済まないよ」

「そうですか」

「ところで今日は何の用かしら?大体察しはつくけれど」

「事前報告です」

「あら、あなたこそ昨日の今日で、もう解決したって言うの?」

「はい」

「名探偵ね」

「昨日、あなたにこの家で談合があったことを聞いた時点で、八割方解決していましたから」

「私のおかげね」

「はい」

「でも、どうしてわかったの?」

「やるべきことをやっていたら見える、真理があります」

「そうね」

「だから……僕は神目貞照氏を許せません」

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