天体観測
「なんでかしら?」

「神目貞照氏が、僕らの夏休みをめちゃくちゃにしたんですよ」

神目薫の視線が、真っ直ぐ、僕を捉える。僕はそれに抗うことなく、受け入れる。

「収賄事件と、轢き逃げ事件と、どう関係してるの?」

「これは、あくまで仮説です。けれど、それよりも、ずっとたしかなものです」

「前置きはいいわ」

「神目貞輝氏は犯人が隆弘を轢くところを、目撃した。けれど、すぐに救助に行かず、犯人に誰も見ていないと思い込ませて、逃がした。なぜなら、犯人が知った顔だったから。その後、通報したんです。そして、後日、その犯人、あるいは犯人の身内を呼び出した。そこで神目貞照氏が行ったのは、罪の共有です」

「罪の共有?」

「神目貞照氏は、犯人を脅したんです。『いつかの轢き逃げ事件見ましたよ』とでも。けれど、それはただ現金を要求したりするものじゃなかった。収賄に加担するように命令したんです」

「そうする意味がないわ。ただ現金を要求する方がリスクが低いもの。パパはそこまで愚かじゃない」

「ただ脅しただけなら、捕まるのは脅した自分と、轢き逃げの犯人です。それを身内や、その人が経営する会社にまで飛び火させた。逃げ道をなくし、確実に現金を手に入れるために」

「逃げ道を……なくす?」

「それが罪の共有です。関係ない人間まで巻き込んで、共犯に仕立てあげた。本来なら、捕まる人間は二人だ。けれど……もしかしたら、企業側の何人かが捕まるかもしれない。少なくとも、倍には増える」

「密告する人が現れるかもしれないわ」

「その可能性はないと踏んでいたと思います。もし……企業側の経営がうまくいっていなくて、喉から手が出るほど金に困っていたら……いくら正義感の強い社員がいたとしても、密告する可能性は低い」

「そんな……」

「後は、あなたの見た談合に繋がる。恐らく……あなたがそこで見た人数が、逮捕者となるはずです」

「思い出せないわ」

「大丈夫です。後々わかることですから」

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