天体観測
「バカなこと言わないで。そんなわけないじゃない」

「言ったはずです。これは仮説です」

「そうよ。仮説に過ぎないわ。だって決定的証拠がないもの」

「そうです。ありません。でも、不自然なところがあるのも事実です」

「あら?何かしら」

神目薫は人をくったように笑った。

「あなたがこの家にいること自体が不自然です。あなたは汚い金も、汚い金で手に入れたものも嫌っていた。なのに昨日、あなたは平気な顔をして僕を招き入れた。実に不自然です。母親のいるところに行けば、この汚いものだらけの家にいる必要なんてなかった。でも、あなたは今も、こうしてここにいる」

「仕方がないじゃない。何処にいるのかわからなかったんだもの」

「『実家に帰らせてもらいます』僕はそう、あなたの口から聞きました」

神目薫の視線が僕から離れ、部屋を漂いだて、生唾を飲み込んだ。

「それが何だって言うのよ。私は……ママの実家の場所なんて知らないもの」

「まだ……ありますよ」

神目薫は目を宙に泳がしたまま、返事をしなかった。それは、半ば、諦めているようにも見える。

「あなたは談合を見た。そう言いました。あなたはその時期を『ちょうどあなたの言う事故』があったときだと言った。そのときです。僕が違和感を覚えたのは。そのときまで、あなたが事件に関係しているなんて微塵も思わなかった。いや、もしかしたらさっきまでそうは思わなかったかもしれない」

「何もおかしいことなんてないわ」

「僕は時期について、言及していないんです。二年前だとは言いました。けれどあなたは、二年前の夏休みだと、そうはっきり言っていた。それに、あなたは談合を聞き取れる位置にいながら、顔を覚えてもいないし、人数すらも覚えていない。それが不自然なんです」

「もうやめて」

そう言った神目薫の顔は、絶望で形成されていた。同時に、僕の頭がひどく痛みだした。

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