天体観測
「認めてください」

「認めたところでどうなるのよ」

「もう……言い逃れは出来ません」

「何故?パパはもう、この世にいないの。誰が私の加担を証明するのよ。あなた?そんなの出来っこないわ」

「さっき、あなたは言いました。警察が来たと。それは隆弘が死んだからです。警察は……もう二つの事件の関連性に気付いています。だから自首してください」

唇をかんで、神目薫が、小さく首を横にふった。

「いやよ。ここまで逃げ切ったのよ。いまさら自首なんて出来ないわ」

「社長が逮捕されれば、あなたのことを話します。間違いなく。僕はあなたが逮捕されているところなんて見たくないんです」

「そんなのわからないじゃない」

「それはありえないんです。今日……この一連の事件は解決するんです。轢き逃げも、収賄も。あなただけ言い逃れ出来るわけがない。神様は……悪事に対しては平等です」

いろいろな思いが流れ星のように僕の頭に降り注いだ。今日ですべてが終わる。それはどうしようもない事実なんだ。涙が出そうになるのを必死に抑えて、僕は、言った。

「自首してください」

神目薫の視線が僕に戻ってくる。僕と神目薫は、黙ってお互いの目を見た。彼女は泣いていた。もしかしたら、このときはもう、僕も泣いていたかもしれない。

「たった一日で……何もかもが崩れ去るなんてね……」

「僕もそう思います。二年間も隠していたことが、こんなにあっさりと終わるなんて、思いませんでした」

「悪い夢を見ているようだわ」と、自分に言い聞かすように、神目薫が呟いた。

「神様は……悪事に対して平等なのね……本当に」

「はい」

「あなたの仮説、見事に全部当たっているわ」

「あなたが……僕を家に入れなかったら、こんなことにはならなかった」

「言ったでしょう?怖かったのよ。あなたが、とても」

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