天体観測
再度鳴らされる、花火の音が、僕らの心を惑わす。空を見上げる人々の瞳に映し出されるそれは、すぐに光に溶け込んでいく。なのに、人々は動きもしないで余韻に浸っている。ただ……儚いだけの光なのに。

「昼前にな、親父から連絡があった」と、村岡が言った。

「俺は、大事な商談中って聞かされたよ。誰だっけ……御幸さんか」

「間違いなくお前やと思った。神目薫の話、聞いたからな」

「なのに、ここに来たのか?」

「けじめやな」

「大丈夫だ。神目薫も、自首すると思う」

どういうことや、と村岡は聞き返す。僕は、起こったことをありのまま説明する。

「神目薫も、収賄に関与してた。むしろ、収賄という案そのものが、神目薫の考えたものなんだ」

「何でわかってん」

間髪を入れず、村岡が僕に質問を浴びせる。

「神目貞照がどんな人物か知らないけれど、わざわざそんな面倒なことをやらないんじゃないかと思ったんだ。政治家って、もっと単純なんじゃないかなって。その点、こういうやり方が、彼女らしかった。それだけだよ」

「もしも神目貞照が単純じゃなかったら?」

「大阪の財政も、少しはマシになってたんじゃないかな」

「ホンマにそれだけか?」

「うん」

「それは……ホームズもビックリやな」

「考えた仮説の、間違いを証明出来なかっただけだ。推理なんて高尚なものじゃない」

「それでも十分やろ」

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