天体観測
今度は僕の番だった。本能的にそれがわかった。

「俺は……今だから言えることだけど、最初から村岡しか見えてなかったのかもしれない」

村岡はただ笑っているだけで、何も言わない。

「最初に怪しいと思ったのは、捜査一日目、あの雨の日だ。お前が入ってきたとき、雨はたしかに終息に近づいてた。でも、雨雲は立ち込めていた。太陽の光が十分じゃないはずだった。なのに、お前は俺の車を見つけて奏に入ってきた。そう言った。普通、たった一回しか乗ったことのない車のことは覚えない。スーパーカーじゃない限り」

「たまたま、もしかして、とかは考えんかったんか?」

「思わなかった。お前があのときバイクで来たと言ったから。見えるわけない。あの天気、少なくとも三十キロは出ている乗り物の上、その条件の下で車を特定できるわけがない。例え、村岡がサッカーをやっていても」

僕の言葉に対する、返事はない。仕方がないので、僕は続ける。

「お前は、最初からつけてたんだ。俺たちを。自分たちでも見つけられなかった、些細な証拠を見つけられては困るから。同じ理由で、俺たちに協力した。でも予想外の発言があった。その発言で気付かされた。自分たちのミスに。消すことに、見つけることに集中しすぎていた。増やすこと、見つけられないことに重点を置くべきだったことに」

「雨宮ね……」

村岡はちらっと雨宮を見る。僕も、それに倣う。二人は、僕らの数メートル前で、仲よく話している。

「だから、方向転換をすることにした。俺を惑わそうとした。悩みを打ち明けて、距離を縮めようとした。でも、結果的にそれは失敗だった。むしろ、逆効果だった」

「何でや?」

「お前は近くにバイクを停めていると言った。だから、俺はその場に残ったんだ。でも、バイクの音なんて聞こえなかった。人通りの少ないはずの公園のそばなのに。それで得た俺の仮説は、お前はバイクなんて持っていない。実際、俺たちは、村岡のバイクを一度も見ていない」

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