天体観測
「なるほどな。たしかに無意識やけど、バイクの存在を主張してた気がするわ」

僕は小さく頷く。

「まだある」

「そんなにあんのか?」

「後、一つぐらいだ」

「聞きましょう」

「その前に、少し休憩。想像以上に疲れるんだ」

村岡が何も言わずに笑みを返してくる。鮨詰め状態の人々は、動く気配を見せない。こんな状態で、こんな会話をしているなんて、信じられなかった。僕の隣には、四十代半ば程の噂話が好きそうな、女性もいる。なのに僕らは、恐らく知られてはいけないであろう会話を、平気で交わしている。それは、実に滑稽で、スリリングなものだ。僕は大きく深呼吸をした。

「昨日だよ」と、僕が言った。

「昨日?」

「恵美のことを聞いてきたときだ」

「変なこと言ったか?」

「うん」

「何て?」

「お前は、神目家が何処にあるか知っていた。現場から三百メートルくらい離れている場所まで捜索しているとは思えない。つまり、お前は前々から知っていたってことだ」

「無意識やな」

「もしくは、心の奥ではもう観念していたか、だ」

「普通怖いよな。自分が原因で人が死ぬのって」

「そうだよ」

「まあ、仮説は大抵合ってるけど、一つ間違ってるな」

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