天体観測
「なあ」と、僕が言った。

「何や?」と、村岡が返した。

「何でここの人たち動かないんだろうな」

「たぶん、警察でも来てるんちゃうか」

僕は驚いて村岡の顔を見る。今朝同様に、うまく状況がつかめない。

「お前らに会う前に、親父に連絡しといた」

「何でだよ」

「言ったやろ?けじめや」

「雨宮は……どうするんだよ。きっと知らない。恵美は気付いているだろうけど……いくらなんでも……それはないだろ」

「雨宮は、お前に関係のある存在か?」

「当然だろ」

「そうか……あいつはな、たぶん気付いてるぞ」

「え?」

「気付いてる。それだけや」

「何でそんなことがわかるんだよ」

「一緒にいるときの言動かな?」

「本当か?」

「たぶん、お前ほど、はっきりとはわかってないやろうけど、間違いないな」

「不憫だな」

「お前と付き合ってる前橋だって不憫で仕方ないわ」

「うるさいよ」

「まあ……お互い様やな」

村岡が一つ咳をして、ようやく空を見上げた。寂寞の思いが、僕に襲いかかる。けれど、僕は意地でも見上げなかった。そこに何があっても、きっと後悔するから。

「なあ、村岡。今日が最後なんて言うなよ」

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