天体観測
僕の言葉を合図にしたかのように、僕らの周りの風景が動きだした。それに合わせて、僕らも歩きだす。カウントダウンが始まった。

「マスターのコーヒーを飲みに、帰ってこいよ」

「どうやろな」と、村岡が笑った。けれど、その瞳には、憂愁の色があった。

「何も心配いらない」

「そうか?」

「恵美だって、そう思ってる」

「そうか?」

「そうだよ」

「でも、会い難くないか?」

「それは、個人的な問題だろ?どうにかしろよ」

「難しいと思うぞ?」

「何年先でもいい。とりあえず、会いに来い」

「『俺と恵美が、待ってる』とか言うなよ」

「雨宮も一緒だ」

「ああ。なるほど」

「四人揃ったら、隆弘を見に行こう」

「俺に資格あるか?」

「ないとは言わせない」

「そうやな」

「今まで生きてきた中で、一番濃い数日間だったよ」

「俺は一番怖かったけどな」

「めったに出来る体験じゃない」

「まあ、大抵の人間は経験せんまま、死ぬやろな」

「不適切な表現だけど、感謝してる」

村岡が僕を不思議そうな顔で見て、「なんでやねん」と、言って、進行方向に視線を戻した。

「この一連の事件がなければ、俺はきっと変われなかった」
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