天体観測
少し間をおいてから、僕が言った。

「たぶん、お前とこうして話すことはなかった」

「やろうな。一方的に話して、すぐ警察に電話してたやろな」

「かもしれない」

「そうやって」

「それにしても、もっと抵抗してくるかと思ってた。あんなやり取りを、日に三回もやるのかと思ってたよ」

「決めてたんや。足立が言ってきたときだけ、諦めようってな。」

「何で?」

「敵わんと思ったから」

「言い逃れる方法なんて、いくらでもある。俺はすべてわかっているようで、何一つわかっちゃいないんだ。村岡が犯人だっていう証拠もない。もちろん、神目薫だってそうだ」

にんまりと笑って、村岡が僕の肩を強く二回叩いた。

「それでも、や」

「わからないな」

「お前は自分が思ってる以上に理解してるぞ」

「そうかな?」

「言い逃れなんて出来ひんくらいな」

村岡が、大声で笑いだした。周りの人が僕らに冷たい視線を向ける。けれど、そんなものは何の抑止力もならなかった。僕も可笑しくなってきて、声を出して笑った。そこには、ユーモラスな要素は何一つない。けれど、ただ笑うしか出来なかった。

「ここは、きれいな所やな」

ひとしきり笑い終えた後、村岡が呟いた。
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