天体観測
村岡が続けた。

「今見ると、こういう風景も眩しく見えるよな」

ふと隣を見ると、村岡が泣いていた。あれほど笑った直後にも拘らずボロボロと涙を流して泣いていた。生まれて初めて自分以外の男が泣いているのを見たけれど、その姿は、どこか神々しい。

「俺って……バカやな」

「そんなことない」

「足立と話してるうちに、めっちゃ後悔してきたわ」

「後悔は成長の布石だ」

「逃げへんかったらよかったな」

「仕方がないよ。人間は利己的な生き物なんだ」

「俺……やっぱり怖いわ」

「誰だってそうさ」

「みんなと離れたくない……」

「それもわかる。でも、罪は償わなければいけない。償わなくちゃ、お前は前に進めない」

そのとき、突然僕らの前が開けた。祭りの最西端に来たのだ。そこには、恵美も雨宮もいなかった。端まで来た人々は、各々散って、祭の渦の中に戻っていく。

僕らから数百メートル先にある国道に、パトカーが二台停まっていた。僕らが気付かないうちに、終わりが来てしまった。村岡が僕を置いて、一人歩き出した。

「ちょっと待てよ」

村岡が、三メートルほど離れたとき、僕は叫んだ。

「終わりや。わかるやろ」

「こんな中途半端で別れられるわけないだろ」

「でも、これ以上待たしたらあかんやろ」

「そんなこと関係ない」

「わがままやな」

僕は爪が皮膚にめり込むぐらい強く、握りこぶしを作った。そして、村岡のところまで歩み寄り、右の頬を力いっぱい殴った。

「絶対、帰ってこい」

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