天体観測
日はすっかり暮れている。時間が気になるけれど、時計を見る気力が湧かない。村岡を見送った後、僕は不安感と孤独感でいっぱいだった。ただその場に立ち尽くして、涙が枯れるまで泣いた。誰も僕を見ようとしなかった。僕も、何も見ようとしなかった。tだ、一つの事件の終わりを噛みしめていた。

僕は、世界から切り取られた空き地にいる。ベンチに座ることが出来なかった。一度座ってしまえば、そのまま立ち上がれなくなる。

僕は暗黒の空を見る。ここから見える空は、都会の空にも拘らず、建物が入らない。プラネタリウムで見るそれと、何の遜色もない。ただ一つ違うことは、星がないことだけだ。

「司」

僕は声のする方を見る。恵美が今にも泣きだしそうな顔で立っていた。雨宮はいない。

「終わったな」

「大丈夫?」

「恵美から見てどうだ?」

「虚ろな目をしてるよ」

「大丈夫だよ。不思議と悲しくはないんだ。ただ、もどかしかった」

「もどかしい?」

「本当にこれでいいのかなって。このまま村岡を行かして、俺たちは笑えるのかなって」

恵美は返事をしなかった。俯いて、今にも零れ落ちそうな涙を必死で抑えている。

「俺たち……笑えるかな?」

「わからん」

「ところで、雨宮は?」

「帰った」

「何か言ってたか?」

「『ありがとう』って……」

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