天体観測
恵美の目から涙が溢れだした。村岡の言うとおりだった。僕とは違う道のりで目的地までたどり着いた雨宮は、すべてを理解していた。僕は、「ありがとう」と、言われるようなことをしたのだろうか。単なる、自己満足だったんじゃないだろうか。

「……司……」

「うん」

「ありがとう」と、僕の目をまっすぐ見て、恵美が言った。

恵美の涙が、僕を現実に連れ戻す。僕はこんな思いをするために、村岡を見送ったわけじゃない。

「泣くなよ」

恵美は黙って頷く。

「村岡は帰ってくるよ。一発殴ってやったから、やり返しにくるよ。だから泣くな」

「うん」と言って、恵美はシャツの裾で涙を拭った。

「全部終わったんだ」

「うん」

「だから、笑えよ。俺も笑うからさ。ここに、何もかも置いて帰ろう。明日は、きっといい日だ」

「うん」今度は大きく頷く。

僕は恵美を抱きしめた。恵美もそれに応える。恵美を抱きながら、僕は空を見上げる。

「なあ、上見てみろよ」と、僕は言う。

「上?」と言って、恵美も空を見上げる。

「明日は……きっといい日だ」

僕らの、過酷で、つらくて、悲しくて、素敵な夏が終わる。
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