天体観測
あれからもう、三年の月日が流れた。僕らは一つ大人になり、隆弘は三回忌を迎える。

あのときの目まぐるしさが嘘のように、僕の三年は長かった。まるであの事件が夢だったかのようだ。あるいは、僕が想像していた以上に、大学生活がつまらないか、だ。

僕らはあの後、一度だけ、隆弘を見に行った。

能勢の山奥に行き、一晩中大学から無断で持ってきた望遠鏡を覗いた。あいつは元気に輝いていた。もしかしたら、僕らよりずっとまともに生きていたかもしられない。

そして、今日に至る。

今日は隆弘が死んでちょうど三年目の日だ。僕らは能勢の、この前とは違うスポットに昼前からいる。虫が多いのが気になるけれどそんなことは言っていられない。

「今日は気持ちいいくらい晴れてるな」と、あれから少しばかり大人になった恵美が言った。

「三年前によく似てるよ」と、また大学から無断で持ってきた望遠鏡を設置しながら僕が言う。

「もっと暑かったわ」

「そうか?」

「うん」

「じゃあそうなんだろ」

「そうや」

僕らの会話に、特に変化は見られない。ベーシックはそんな簡単に変わるものじゃないんだ。

「隆弘に会えそう?」

「ああ」

「ホンマに?」

「第三天文部部長が言うんだ。間違いない」

「でも……あれって宇宙膨張限界説を唱えて存亡の危機なんちゃうの?」

「そんなのどんな天文学者だって言ってるよ。俺は人類火星到達説を否定しただけだ。片道でなら行けるかもしれないけれど、往復は無理だって」

「似たようなことやんか」

< 205 / 206 >

この作品をシェア

pagetop