天体観測
母さんと父さんが別れたのは五年前で、たぶん一方的に父さんが悪いに違いなかった。

理由をしらないのは、僕が知りたいと思わなかったからと、二人が僕に夫婦喧嘩を見せないまま結果だけを告げたからだ。こういうやり方は実に父さんらしく、僕らしいと思う。

「母さん、仕事なんじゃないの」

「いけない。冷徹な息子にご飯なんて作ったばっかりに……」

「一応聞いてあげただろ」 

「はいはい。わかりましたよ。じゃあ行ってくる」

勢いよくジャケットを引っ張り上げ、猪のように玄関に向かって走っていった母さんが、ふと僕の方を振り返った。

「ねぇ司、洗濯物を入れておいてね。それと、絶対、恵美ちゃんに謝ってくること」

「この世からラジオ体操が無くなったら謝りに行くよ」

「もう、可愛くないわよ。今度こそ行ってくるわね」

「夜は適当に食べるから彼氏と夜、食べてきていいよ」

「バカね」と、はにかんで母さんは出ていった。

一人になった僕は、とりあえず洗濯物を入れるべく庭に出た。

外はうだる程暑かった。数分外にいるだけで汗が滝のように流れてくるし、数メートル先には陽炎が出来ている。

僕はそんな中、二人分の比較的少ない洗濯物を取り込み、たたみ、それぞれの部屋に持っていった。

ダイニングに戻るとまだ『Saturday in the park』が流れている。

ふと、カレンダーを見ると残念なことに今日は土曜ではなく水曜日だった。

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