天体観測
ここは奏で見たあの光景に似ていた。たしかにこれが僕の夢ならば、僕の見た星空らしい星空は、あそこのプラネタリウムだけなのだ。
「キレイでしょ?」

「ああ。すごいよ。星に囲まれているっていうのも悪くない」

「ここがどこだかわかりますか?」

隆弘は両手を大きく広げて、その場で回りだした。気が付かなかったけれど、ここには重力もない。

「わからないな。こんな形で星を見たことなんて無いから」

「ここはね。夏の大三角形の一部、こと座のα星ベガですよ」

隆弘は僕の肩を掴んで微笑んだ。

「きっと俺はここにいますから、あまり無茶はせんといてくださいよ。恵美は泣き虫やしビビリやから、俺だけやなくて、司さんまでおらんくなったら、きっと死んでまう」

「そうだな。でも、お前はまだ助かるかもしれない。諦めたらだめだ」

隆弘は、僕から離れていった。その顔はどこか悲しげで、全てを見透かしたような目だった。

「もう無理ですよ。二年も目を覚まさへんまま死ぬのは、正直つらいけど運命なんですよ」

「運命って言葉は好きじゃないんだ」

「自分のことは自分が一番よくわかるんです。僕はもうすぐ死にます。司さん。司さんもそう思ってはったじゃないですか?」

僕は『ティファニーで朝食を』を思い出して、舌打ちをした。

「あんなときに、読むんじゃなかったな」

「いいんですよ。気にしてませんから」

隆弘と僕は数メートル離れた距離から、互いに微笑んだ。

突如、僕の後ろから太陽が現れた。太陽の光は僕らの周りの星々を、次々に見えなくしていき、僕と隆弘だけを残して姿を消した。僕には、この意味が理解できた。 

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