天体観測
「時間みたいだな」

「そうですね。残念やな。もう少し話したかったのに」

「また、夢で会おう」

隆弘が「はい」と言うと、だんだん輪郭が薄くなっていき、足の方から消えはじめた。

僕は消えていく隆弘をただ見つめていて、隆弘はその僕を見つめていた。

「司さん、『僕はあの二人に背を向けれないんだ』って言葉は、少し感動しました。どういう意味やったんですか?」

隆弘はもう、上半身しか残っていない。

「お前たちを放っておけないってことさ。それ以上でも、以下でもない」

「嘘でしょ?俺に隠し事は通用しないですよ」

「じゃあ、わざわざ口に出すこともないだろ?」

「恥ずかしがり屋ですね。可愛いとこあるじゃないですか」

「うるさい。早く消えろ」

僕が言うと隆弘は「やっぱり可愛くねえ」と言って笑った。

もう時間はない、隆弘は消える。

「俺、実質十五年しか生きてないけど、幸せでしたよ」

「ちょっと待て。もう、逝くのか?」

「それにはまだ時間あると思います。おじさんと頑張って、稼ぎますから」

「そうか」

「さっきも言ったけど、くれぐれも無茶はせんことですよ。俺、司さんと恵美には俺の分も生きといてほしいんで」

隆弘は、はにかみながら言った。

「ああ。俺がお前に送るプレゼントだ。いつになるかわからないけど。それと恵美のことは……任せてくれ」

「やっぱり」と言って隆弘は消えていった。僕ももう、目を覚まさなきゃいけない。

僕は無意識に消えた太陽の方へ泳いだ。

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