天体観測
この轟音で聞こえなかったのかもしれない。恵美は少しも驚いた様子を見せず、悠然と滝壺を見ていた。でも僕としてはありがたい。誰があんな夢を、隆弘の実の姉に説明できる。
僕も滝の方に目を向けて、水の流れを追った。
恵美は滝壺を、僕は水の流れを見たまましばらく時間が過ぎた。
僕が少し目が疲れたので伸びをしたとき、恵美が口を開いた。その声は普段なら聞き取ることも難しい声だったが、今は滝の轟音すらかき消していた。
「私は、司の夢を見た」
恵美は滝壺を見ていて、僕の方は横目も向けていなかった。
「夢の中の司はね、すごく優しかった」
「現実でもそうさ」
恵美はようやく僕の方を見て少し笑った。
「よく言うわ」
「どんな話をしたんだ?夢の中の俺と」
「主に隆弘のこと。中途半端やった私を、一生懸命説得してくれた」
恵美は僕の方に体重を預けてきた。やはり恵美からは夏の匂いがする。
「重い?」
「いいや。むしろ心地いいよ」
「よかった。司の夢はどんな夢やったん?」
「最初はさ、何にもない寂しい空間にいたんだ。あるのは地平線と俺だけ。俺は恐くなって、歩きに歩いた。そしたら急に隆弘が出てきて、今までいた空間の壁が迫ってきた。俺、また恐くなって目をつむったんだ。じゃあ、あいつ言ったんだ『ここは俺自身なんです』って。その後、目を開けるとそこは宇宙だった。後は……恵美と同じだよ。ただ説得みたいな感じじゃなかった。そうだな……決意を確かめてるような感じだったな」
僕も滝の方に目を向けて、水の流れを追った。
恵美は滝壺を、僕は水の流れを見たまましばらく時間が過ぎた。
僕が少し目が疲れたので伸びをしたとき、恵美が口を開いた。その声は普段なら聞き取ることも難しい声だったが、今は滝の轟音すらかき消していた。
「私は、司の夢を見た」
恵美は滝壺を見ていて、僕の方は横目も向けていなかった。
「夢の中の司はね、すごく優しかった」
「現実でもそうさ」
恵美はようやく僕の方を見て少し笑った。
「よく言うわ」
「どんな話をしたんだ?夢の中の俺と」
「主に隆弘のこと。中途半端やった私を、一生懸命説得してくれた」
恵美は僕の方に体重を預けてきた。やはり恵美からは夏の匂いがする。
「重い?」
「いいや。むしろ心地いいよ」
「よかった。司の夢はどんな夢やったん?」
「最初はさ、何にもない寂しい空間にいたんだ。あるのは地平線と俺だけ。俺は恐くなって、歩きに歩いた。そしたら急に隆弘が出てきて、今までいた空間の壁が迫ってきた。俺、また恐くなって目をつむったんだ。じゃあ、あいつ言ったんだ『ここは俺自身なんです』って。その後、目を開けるとそこは宇宙だった。後は……恵美と同じだよ。ただ説得みたいな感じじゃなかった。そうだな……決意を確かめてるような感じだったな」