天体観測
「それはそうかもしれないけど、急だな。別れてもう五年になるのに」

「何でも、大変厄介な患者がいるしいわ」

それは言うまでもなく隆弘のことだろう。父さんは隆弘のことを母さんには言っていないらしい。父さんは医者の守秘義務を、しっかり守っているのだ。

「もう少し、いい加減な人だと思ってたな」

僕は思わず呟いてしまって、母さんが不思議そうな顔で僕の方を見ている。僕はその母さんの視線から逃れるため、コーヒーをすすったけれど、やはりまだ熱かった。

「そうだ、司。昨日、鍵を閉めないで寝たでしょ?疲れてたのはわかるけど用心してよね」

昨日、僕はHIROから帰ってきて部屋に戻ってすぐに、猛烈な睡魔に教われて、そのまま寝入ってしまったのだった。たしかに鍵をした記憶が無い。

「ごめん。これから気を付ける」

僕はふいに寝ている父さんを見た。その寝顔はとても穏やかで、つい数時間前まで、今にも死にそうな患者に付きっきりでいたとは思えない。

僕はふいに隆弘のことが気になった。父さんがここに来たのは、実は僕に対して何か伝えることがあったんじゃなかろうか。恵美には直接言えないようなことがあったんじゃなかろうか。

「ねえ、司。勉強してるの?」

母さんが僕の考えを断ち切った。それは母親ならば当然の質問には違いなかったが、朝起きたばかりなのに言われたくはないし、隆弘のことを考えていた今、なおさら言って欲しくはなかった。

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