天体観測
シャワーを浴び終えて、ダイニングに戻ると、また母さんはいなかった。タイミングが悪いのか、意図的なのか、母さんはよく僕が寝ていたりシャワーを浴びているときに、仕事に出る。

父さんはソファで本格的ないびきをかきはじめていた。

僕はそれが可笑しく、笑いだしそうになったが、我慢してステレオに向かい再生ボタンを押して、さっき座っていた椅子に腰掛けた。

ステレオから流れてきた曲は、僕の予想に反して『Yellow Submarine』だった。この曲は父さんがよく聞いていた曲だ。

「知ってるか。この曲」

僕がその声の方を向くと、父さんはソファに座って煙草をふかしていた。

「五年前まではよく聞いてたからね」

「この曲にはビートルズのすべてが詰まっている」

「世間一般では『HELP』とかなんじゃないの?」

「世間はそうかもな」

「世間はそうかもね」

父さんは天井を見上げて、煙をはき出して僕の方を見た。

「やっぱり司は俺に似てるな。母さんには、真澄には、あまり似てない」

「一応、血は半分半分なんだけどな。父さんの血はきっと濃いんだよ」

「血が濃いか……それは都合がいいな」

「なんでさ」

「どれだけ世間と離れても、一人じゃない」

僕と父さんは腹を抱えて笑った。笑いが笑いを喚び、止まらない。

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