天体観測
「それじゃあ、元を取れない」

「元を取るつもりがないから」

「大阪の人なのに、商売が下手だね」

「金儲けしたいわけじゃないんよ」

マスターは僕の座っている席のすぐ横のカウンター席に、腰を下ろした。

「どう?かっこいいかな?」

「まともな大人じゃないよ」

「そんなこと言うなや。虚しいやろ」

僕はもう一口コーヒーをすすり、マスターは座ったばかりの椅子から立ち上がって、また奥へ戻っていった。

恵美はきっちり三十分後に来た。時刻はもう一時に近い。

「お待たせ」

恵美はいつかと同じ青いワンピースを着ていて、やはりそれは恵美にとても似合っている。

「別にいいよ。マスターが相手をしてくれたし。俺なりに、色々考えてたし」

「で、どうするん?」

「とりあえず夜まで会議」

僕の言葉の意味がわからないのか、恵美の顔が怪訝そうな調子になった。

「夜?司くん」

「夜の方が都合がいいからさ」

「だからなんでよ」

「まず白昼堂々と国道で何かを探してたら、目立つだろ。それに僕らが現場検証を昼にしたら、犯人は夜に僕らも警察も気付かなかった物的証拠を隠滅するかもしれない。でも僕らが夜やれば、犯人はそれを昼にやらざるをえない」

「つまりこれ以上、犯人には何もさせないってことやね」
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