天体観測
「まあ、そんなところ」

僕らの話が一区切りついたとき、マスターが奥から出てきて「べっぴんさんにはコーヒーご馳走するで」と、言って自慢のコーヒーを宣伝したが結局、恵美はコーラを注文した。

「なあ少年。そのべっぴんさんは何でコーラやねん。君の彼女なら、絶対コーヒーを飲むはずやろ」

「私、恵美って名前なんです」

「答えは僕の彼女じゃないからです」

「それはもったいないで。僕が思うに、こんなべっぴんさんには人生で一度すれ違うかすれ違わんかやで」

恵美は耳を真っ赤にして俯いて、何かぼそぼそと言っている。

「じゃあ僕は十何年も一緒にいるんだから、かなり恵まれてる方なんだね」

「そうやな。出会いっていうのは本来、一期一会や」

マスターは液体より泡の方が多いコーラを、恵美の前に置き、またカウンター席に腰を下ろした。

「だから出会いは大切にしろよ。それがどんな形であれな」

そう言ったマスターの目は、僕らを見ているようで全く違うものを見ていた。それはすごく近くにあるようでもあり、ひどく遠い場所にあるような気もする。世界の中心を見ているようで、世界の端を見ているような。ただ、僕が言えるのはマスターのその目は憂いの色だった。
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