天体観測
「わかった。今年の阪神はAクラスに入れない。そういうことやな」

いつのまにかカウンター席の阪神タイガース談議は、終焉に近くなっていた。

「残念やけど四位と見た。プレーオフには出れへんね。投手陣が不安定やし、野手は去年の勢いもない。だから四位」

僕としては下の二球団が気になるところだったが、口に出さないことにした。こういうタイプの人間に横からものを言うのは、とても危険だ。

「まだまだ後半戦はじまったところやで。憎き巨人の監督の言葉を借りるなら『メイクミラクル』を起こすかもしらんで」

「巨人の言葉なんか信用もできひん」

たしかに『メイクミラクル』なんてものを起こせるなら、隆弘だってここにいるはずだ。世界っていうのは、そんな都合よく回っていない。

ふと時計を見ると、時刻はもう五時になろうとしていた。外は雨の影響で、こんな時間なのに薄暗い。

「恵美、そろそろ行こう」

「夜まで会議なんやないの?」

「阪神の会議をしたかったわけじゃないんだ」

「ごめん」

恵美はテーブル席に戻ってきて、申し訳なさそうに俯いた。

「いいよ。会議って言っても、議題なんて無かったわけだし」

「え、ないの?」

「ないよ。何もわからないんだから」

「これからってわけね」

「これからってわけだ」
< 66 / 206 >

この作品をシェア

pagetop