天体観測
神崎刀根山線を少し東に入った十字路。僕らが今立っているのは、二年前隆弘が倒れていた場所だ。あの日は、こんな蒸し暑い雨の日じゃなく、夏にしては珍しく、少し寒いくらいの晴れた日だった。僕らがここに来たのもたぶん二年ぶりだと思う。少なくとも僕はそうだ。

恵美はマスターから借りた傘をさして、道路の真ん中にたたずんでいた。

「あのさ、今思ったんやけど、二年前の物的証拠なんて見つかんの?」

「見つからないかもしれない。でも、見つかるかもしれない」

「さっきと言ってることずれてるけど、それでいいの?」

「一番の目的は現場と隆弘が轢かれた状況を照らし合わせて矛盾を見つけること。その次に物的証拠を見つける。例え二年前のことでも証拠は必ずある。人間が物事を完璧にこなせるわけがない。絶対。自然にだってそんなことはさせない」

恵美は黙って、首を縦に振りその場に屈んだ。

「ねえ、司はさ。どういうこと考えて生きてんの?」

「何だって?」

雨のせいで、恵美の声がよく聞こえない。僕は恵美の隣に行き、同じように屈んだ。三百メートルほど先に大量に車が止まっていたが、こちらに来る気配はない。

「だから、司はどんなこと考えて生きてんのって」

恵美は顔を地面と平行に向けて、何かを見つけようとしている。

「ろくでもないこと考えてると思うよ」
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