天体観測
「ろくでもないことって……例えば、世界征服とか?」

恵美は至って真面目な顔をしていた。こいつは僕が本気で世界征服を考えていて、それを実行するとでも思っているのだろうか。

「世界征服ね、たしかに悪くない」と、言ってみようかと思ったけれど、これは得策じゃない。恵美は至って真面目に聞いているのだから。

「夏なんて早く終わればいいと思ってる。いや、無くなればいいとすら思ってるかもしれない。夏がなければ、隆弘は事故に遭わなかったかもしれないし、俺たちもこうして雨に濡れながら、道路とにらめっこしていないかもしれない」

恵美は不思議そうに首をかしげる。僕の言葉はゆっくりゆっくり恵美を侵食していく。

「夏は司が思ってるよりも早く終わるよ。夏休みってそんなもんやん。『ああ、宿題早めにやっとけばよかった』って後悔して、始業式の三日前とかにやるやんか。でもね、今年の夏休みはそういう後悔したくないねん。全部をきっちり終わらしたい」

恵美の言葉は僕を通り過ぎ、未来に語りかけているようだった。

「俺はちゃんと、七月中に終わらしとくタイプだから。そんなの思ったことない」

僕はさらりと受け流した。人間の良識で言えばここは絶対に何も言わないでいるべきだった。でも、僕はやはり子供でどうしようもなく生意気だった。

「じゃあ、数学の宿題見せてね」

次の瞬間、僕は傘を放して笑っていた。
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