天体観測
結局、今日の成果は十円玉二枚だけだった。雨は傘では防ぎきれない程になってきて、これ以上は現場検証なんてできる状況ではなかった。

六時過ぎ、僕らはHIROに戻ることにした。傘を返しに行かなくてはいけないし、父さんを迎えに行くにはまだ早い。

「お宝は見つかったんか?」

マスターは少しいたずらっぽく笑って、言った。白髪混じりの中年男の笑みとは思えない。

僕はカウンター席まで行き、十円玉二枚を叩きつけた。

「お湯でもいいから飲み物」

「私はお湯なんて嫌」

「うまいホットコーヒー、入れたるわ」

マスターは奥に引いていき、すぐに戻ってきた。手にはタオルを持っていて、それを僕らに放り投げ、「風邪こじらせたら宝探しもできんやろ」と言って、また奥に行った。

僕はさっきと同じテーブル席に座わる。店内を見渡しても、僕らがいない間に、客が来た様子はない。

「ここって、儲かってんのかな?」

恵美は僕の前に座って、長いストレートの髪を拭いてる。その姿は僕を強く引き付ける。僕はそれから避けるため、窓に向かって、言った。

「今から出てくるコーヒーを飲んでみて、値段を聞いてみたらわかるよ」

「そんなん言われると怖いやんか」

僕はさっきのマスターと同じ、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
< 69 / 206 >

この作品をシェア

pagetop