天体観測
プラネタリウム内には、僕たちしかいなかった。開演時間までは、まだ五分ほど残していたが、どうやら僕ら以外の客は来ないみたいだ。

「人、全然いないんだな」

「今時の子供は宇宙の神秘よりゲームの不思議やからね」

僕は「うん」とだけ返事をして、円状に並べられた椅子の、一番出入口に近いところに座った。

「第一ここは座席が少ないよ。普通のプラネタリウムなら、椅子は五層くらい並べられるのに、ここには一層しかない。みんな入りたくても敬遠するさ」

「人が多いと、ここの空気が汚れるから」

僕はまた「うん」とだけ言って、黙った。正直、驚いた。

確かにプラネタリウムには独特の匂いや、雰囲気がある。日常生活では決して味わうことの出来ない期待や、まるで、草原で夜空を眺めるような解放感がある。確かに、この場所は汚してはいけない。

もう僕には椅子さえ必要ない気がした。

「なぁ、隆弘どうなんだ。その……容体は」

「変わらへんよ」

「そうか」

僕はこれ以上、何も聞けなかった。ぼんやりと座って、ぼんやりと恵美を眺めていた。恵美は、僕の隣にいるのが不自然なほどきれいだった。

そうやって恵美を眺めていると、ブザーが鳴り照明が落とされた。

「ねぇ、司。人は死んだら本当に星になるんかな」

「家のじいさんは死んだけど、星になりましたって手紙はこないな」

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