天体観測
天井に映された何万、何十万とある星は、それぞれ違った個性があった。青いもの、赤いもの、明るい色、暗い色、何万、何十万とある個性を、こんな簡単に表すことは失礼かもしれない。でも、僕は不覚にもこんな簡単な言葉でしか表せないくらい、星に魅力されてしまった。

僕は忘れてしまっていた。外の暑さとか、受験とか、恵美や隆弘のこと、何もかも。

「案外いいもんやね。プラネタリウムって」

ガンガンに冷房の効いた車の中、僕らはステレオから流れる『星に願いを』を聞きながら、宇宙の神秘の余韻に浸っていた。

「たしかに悪くなかった」

「ほんまにつまらんわ。司って、もっと気のきいたこと言えへんの」

「よく言われる」

外を見ると、小学生が暑さに負けず、走っている。彼らがもし、星になったら、光り輝く一等星になるに違いない。

「星を見て思った。人って死んだら本当に星になるかもって」

返事はなかった。笑いでも堪えているのかと思って左を見ると、恵美が声を出さずに、窓にもたれかかって泣いていた。

こういうとき、男の僕はどうしたらいいのだろう。
「泣くなよ」とか、「どうしたんだよ」とかを聞くのは簡単だけど、僕にはなんとなく理由はわかっていたし、そんな甲斐性もなかった。だから僕は、ただただ座って、ステレオの音量を最大にして『星に願いを』を聞いていた。

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