君を愛する

　修二と一緒に彩香の家に着くと、お父さんとお母さんがすごい勢いで玄関にやってきた。
出産の時にも立ち会ってたが、やはり家に赤ちゃんがくると嬉しいらしい。
「彩香、よく頑張ったわね。赤ちゃんの名前は何て言うの？」
「優しい子に育ってほしいから、優人(ゆうと)っていう名前にしたの」彩香は照れながら言った。
「そう、良い名前ね。当分は学校も休んで、育児に専念しなさいね。お母さんも育児の仕方を教えてあげるから」
「ありがとう。早くこの成長が見たいな」彩香は小さく呟いた。
　それからは育児に悪戦苦闘しながら、彩香もまた母親として成長していった。数か月後、ようやく育児に慣れたところで徐々に学校にも行き始めるようになった。
　彩香が学校に行き始めた時には、高三ということもあって皆受験モードに入っていた。しかし、彩香は大学に進学するかどうかを迷っていた。育児もしなければならなかったし、大学に行けばまた昼間は育児を親に任せるしかなくなり、経済的にも負担を強いることになる。その日の夜、お母さんに相談した。
「お母さん、相談があるの。私高校卒業したら、やっぱり育児に専念した方が良いのかな。本当は大学に行きたかったけど、そうなったら昼間の育児はお母さんに任せるしかなくなるし、経済的にも負担をかけるから正直迷ってるの」
「彩香。人生は一度きりしかないんだから、自分がしたいことをやりなさい。大学に行くにしろ行かないにしろ、それは彩香が決めたことなんだからお母さんは反対しない。もし大学に行って育児や経済的に負担をかけられたとしても、そんなの親にとっては何も負担には感じないの。だって、自分が苦しんで産んだ子供なんだから、子供の幸せのためなら親はいくらでも頑張れるの。そうでしょ？」
　お母さんのその言葉を聞き終えると、私は自然と涙が零れた。
「うん、お母さんの言葉聞いて安心した。私、大学に進学する」
「そう、ずっと悩んでたのね。でも、自分が決めた人生なんだから、悔いのないように生きなさいよ？」
「うん、分かってる」笑顔でそう言って、彩香は優人の世話を始めた。
　それからは充実した毎日だった。昼間は学校で受験勉強、家に帰ってからは優人の世話でほとんど勉強する時間が無くなった。そんな中でも、時にはお母さんが育児を手伝ってくれて受験勉強に時間を充てることが出来た。