君を愛する
 学校に着きクラスに入ると、修二の姿はなかった。
「彩香。修二と別れたって本当?」里穂が心配そうに聞いた。
「うん。修二が私と別れたかった理由は分からないけど、ずっと考えても現実は変わらないと思う。今自分にできることを精一杯やることだけだと思う」
 彩香が力強くそう言うと、他の皆は黙り込んでしまった。実際私だって他のことには手を付けられない状態だけど、それでも何かをやらなければ時間は待ってくれないと思った。
 その日から再び受験勉強と育児に奮闘した。学業と育児の両立は確かに大変だったけど、勉強は着実に成績を伸ばして希望の大学にも入れるところまできた。育児の方も日に日に優人の成長が実感できるから、それがこの上ない喜びとなった。
 そんな毎日が続き、とうとう受験本番まで一ヶ月を切った。皆はラストスパートだと意気込んでいる。
「秀、あんた本当にその成績で受験大丈夫? 私たち皆同じ大学目指して頑張ってきたんだから、秀だけ落ちたら笑い事じゃないよ」
 美咲は真面目な顔で言った。私たちはだいぶ前から話し合って、どうせだったら大学までずっと一緒にいようっていう結論に至った。
「大丈夫だって。あと本番まで一ヶ月もあるんだし」
「何が大丈夫なのよ。ついこの前の模試で判定良くなかったじゃない」
「俺はラッキーボーイなんだから。何とかなるって」
秀は大笑いしながら言った。
「里穂、このバカ何とかしてよ。ラッキーで受かるほど大学受験は甘くないんだって」
 美咲は思いっきり秀の頭を叩いた。そんなバカげた話をしながらも、とうとう受験本番を迎えた。
「とうとうこの日が来ちゃったね。みんな一緒に受かると良いね」
「大丈夫だよ、彩香。皆この日のために必死に頑張ってきたんだから。努力した人には絶対報われる、って私は信じてる」美咲はそう言うと、私の肩を優しくポンと叩いた。
「そうだよね。この日のために皆頑張ってきたんだもんね。皆で良い結果が出るように、自分の力を精一杯出し切ろうね」
「そうだな。まあ、俺は受かる気満々だけどな」
「何言ってるの? あんたが一番受かるかどうか危ないんだからね」美咲がそう言うと、秀の背中に美咲の強烈な平手打ちが飛び出した。
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