君を愛する
「修二、もう病院に帰る時間だよ」
「もう帰る時間か。仕方ないな、帰るか」
 二人は立ち上がり、私たちは優人のベビーカーを押しながら歩き出した。
 病院に着き、それからも私たちは面会時間が終わるまで話し続けた。
 それからも大学へは程々に休みながら、毎日修二のお見舞いに行った。しかし、修二の病状が良くなる兆しは全くなかった。それでも私は諦めずに看病を続け、修二も抗がん剤治療や放射線治療を繰り返していた。
 毎日苦しい治療を受けているうちに、副作用が目に見えて出てきた。髪が抜け始め、一日に何回も嘔吐を繰り返し、そんな修二を見るのは心苦しくなった。
 私は時々こう思う。修二がこんなに苦しむのなら、私が修二の代わりになってあげたいと……。
 余命半年と宣告されてから四ヶ月、こんな毎日がずっと続いていた。もうここまで来ると、修二は苦しさのあまりほとんど喋ることが出来なくなっていた。
 私はずっと修二に話しかけていた。しかし、修二からは返事はない。こんな毎日が続くと、さすがに私の方も精神的に疲弊してきてしまう。
 余命宣告から五ヶ月目のある日、私は大学に行っていた。少し昼を過ぎた頃、私は遅い昼食を食べていると、修二の携帯から電話がかかってきた。しかし、私の耳に聞こえてきた声の持ち主は、修二のおばさんだった。
「彩香ちゃん。修二の病状が急変したの、急いで病院に来て」
 それだけを言うと、おばさんは電話を切ってしまった。
 私は気持ちの整理が出来てないまま、食べかけのお弁当を鞄に入れて急いで病院に向かった。
 大学から電車で病院に向かおうとすると時間がかかるので、急いでタクシーを捕まえて、運転手に修二が入院している病院に向かうように言った。
 タクシーに乗っている間、美咲たちにも修二が危ないことを連絡した。美咲たちも急いで病院に駆けつけてくれることになった。
 病院に着くと、急いで修二の病室に向かった。
 病室に入ると、主治医の人が懸命に治療をしていた。看護師も慌ただしく動いている。
「彩香ちゃん、修二がいきなり吐血して……。そのあと、いきなり意識朦朧になってしまって……」
 おばさんは泣きながら話した。修二がいきなり意識朦朧になってしまったから、当たり前のことだった。
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