君を愛する
「大丈夫だよ、彩香。修二はいなくなってしまったけど、私たちは絶対に彩香の傍からいなくならないから。とりあえず、病室から出よう」
 美咲に促され、私は秀の肩を借りながら病室から出た。
 病室の近くにあるベンチに座ると、美咲は何も言わずに私の背中を摩ってくれた。そんな美咲の優しさにはいつも助けられている。
 どのくらいの間私は泣いていたのだろう。しばらくすると、私はだんだん落ち着いてきた。
「彩香、落ち着いた? 修二がいなくなってしまったのは悲しいけど、彩香だけが悲しいわけじゃない。私たちだって悲しい。でも、ちゃんと事実を受け止めなければダメなんだよ、じゃなきゃ私たちはいつまで経っても成長しない。それくらいは分かるよね?」
 私は小さく頷き俯いた。頭では分かっている、でも心が追い付いていかないという現実があった。
「今私の親が車で病院まで迎えに来てくれるから、今日は私の家に泊まろう。こんな時は誰かと一緒にいた方が落ち着くでしょ」
「ありがとう」私は小さな声で言った。
 少しすると病院の前に美咲の親がやってきた。私は美咲に支えながら、美咲の親の車に乗り込んだ。
 車の中では誰一人として言葉を発しようとはしなかった。修二がいなくなったことで、皆が大きなショックを受けているからだろう。
 美咲の家に向かっている途中、私は泣き疲れたのか車の中で寝てしまっていた。
 美咲の家に着くと、私は美咲に起こされた。
「彩香、家に着いたよ」私は少し寝ぼけながら車から降りた。
 美咲の家に来るのは久しぶりだった。それでも、前の美咲の部屋と代わり映えはなかった。
「美咲の部屋に来るのは久しぶりだな。でも、やっぱり美咲の部屋は落ち着く」
「今日は色々とあったから、とりあえず今日は私の部屋でゆっくりしていきなよ。あと、秀たちはどうする?」
「俺らも今日は美咲の部屋に泊まっていこうかな。どうせなら話し相手は多い方が良いだろ?」
「そうだね。じゃあ、今日は修二との思い出でも語ろうね」
 美咲は明るく振る舞ってそう言った。
 私たちは今までの思い出を朝まで語っていた。そして語り疲れたのか、皆は寝てしまった。
 私が起きた頃には、もう昼過ぎていた。他の人たちはもう起きていたらしく、美咲の部屋には誰にもいなかった。
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