君の唄
しばらくの間ぼーっと前の暗い道をみつめていた。


人なんか通ることはない。


そう思って、俺は最近覚えた歌を口ずさんだ。


好きではないが、カラオケで盛り上がるために覚えさせられた曲。


俺の中の歌、というものは、カラオケでの盛り上がりが一番重要で、たまに歌手とかが言う、心に響くというものには出会えてなかった。


俺の中での¨歌¨はただノリのいいキャラを守る道具でしかなかった。




「♪~♪」


静かに口ずさむ。


あたりにいい感じに響くが、なにも感じなかった。

ただの練習。


俺は機械的にリズムを繰り返した。


5分ほどたった頃だろうか。


「♪~♪~♪~♪…

「♪♪♪♪♪♪~」


俺の情けない歌声に、全然違うリズムが割り込んできた。


とっさに後ろを振り返るが、まだみんな寝ているようだ。


そのリズムは、遠くから来ているようで、だんだん近づいてくる。


「♪♪♪♪~♪♪♪」


俺は耳を澄ませた。


感覚的に、どうやら下のようだ。


俺は、ゆっくりと前の道を見直した。



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