100万本のチューリップ(短編)

彼女の姿

「管理人さん…あの子を知っているんですか?」

管理人の老人は頷いた。

「あの子はここにいるんですか?」

『お前達はなぜ彼女を知っている?』


老人の問いに、淳が今まで見た夢と、街中で彼女を見た事

そして今日和也が見た夢も

全てを2人は告げた。


老人は少し沈黙して

それからゆっくりと話した。


『あの子は、恋人を探しているんだよ。』

「恋人…?」


『あの子はな、恋人を亡くしているんだよ。

ずっと昔ここは、チューリップ畑なんかじゃなく、普通の家が建っていたんだ。

彼女の恋人は、人を助ける…今で言うレスキュー隊だな…その仕事をしていたんだ。

それはもう、危険な仕事だったらしい。

ある日男は、朝行って来ますと家を出たまま

人の命を救ったのと同時に男は自分の命を失ってしまったという話だ。

女は恋人の死を受け入れる事が出来ずに、家でずっと男を待ち続けた。

お腹に子を抱えたままな…。

今でもまだ、その恋人を探しているんだ。

ずっと

ずっと…

もう何十年もな…。』


「……は!!??」


『彼女ももう…死んでいるんだよ。』

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